国語教師、『「若者の読書離れ」というウソ』を読む

「若者の読書離れ」というウソ (平凡社新書1030) 作者:飯田 一史 平凡社 Amazon 手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて日常生活が不自由になっていく病気であるALS(筋萎縮性側索硬化症)の特効薬の特許をもつ大富豪が安価な市販化を渋…

「びーあんあいどる!!」を観る

知り合いが関わっていたので、システマ・アンジェリカ×劇団くるめるシアター企画公演「びーあんあいどる!!」を観た。感想を述べるべきなのだろうと思うのだが、私にはこういう形でしか感想めいたものが書けず、失礼だというのはよくわかっているのだが……。…

児玉雨子『##NAME##』を読む

美砂乃ちゃんといた世界の断片だけは憐れまれたくなかった。目を離せば、あっという間に散り散りになってしまう小さな世界。誰からも覗きこまれたくなかった。そしてどんな美しい言葉であっても物語られたくなかった。怒りと同じで、物語ることができるのも…

『耳をすませば』を経済的階級差を越える物語として見る

妻が録画していた『耳をすませば』を見るのに便乗してつい私も見てしまった。何度も見てきた作品だが、今までで一番落ち着いて見られた気がする。自身の思春期から遠く離れてしまったからだろうか……そして、落ち着いて見ていると、この映画に、同じ公立中学…

2022年に「ラブ&ポップ」を観る

ラブ&ポップ 三輪明日美 Amazon 映画「ラブ&ポップ」を見た。おもしろかった――古い、ということも含めて。 映画には、 決められた時間を守り、決められた場所をつなぐ乗り物。連れて行かれると言う感覚。毎日が昨日の繰り返し。明日が今日と違うとは考えら…

人間と、動物か機械か

授業の中で、生徒に「人間らしさとは」と尋ねることがあった。「理性的」とまとめられるような回答と、「感情的」とまとめられるような回答に分かれるだろうと想定したのだが、「やらなければいけないことをやらずに別のことをする」「欲望のまま行動する」…

酸漿に似た富士と花――太宰治『富嶽百景』

授業のために、太宰治『富嶽百景』を読んでいるのだが、この小説の最後の場面。 その翌る日に、山を下りた。まづ、甲府の安宿に一泊して、そのあくる朝、安宿の廊下の汚い欄干によりかかり、富士を見ると、甲府の富士は、山々のうしろから、三分の一ほど顔を…

文具放談

もう何年も前のことだが、学生の時分、教育実習に行った学校で、子どもたちがみんな、テープのりを使っていた。スティックのりはわずかに生き残っていたが、液体のり等を使う者は皆無であった。私などは、テープのりの存在は知っていたけれども、かつて、彗…

宇宙世紀に乗り遅れ——『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 【Blu-ray特装限定版】 バンダイナムコアーツ Amazon 映画館でやっていたときから見たいと思っていたのだが、早くもAmazonプライムに出たと聞き、観た。 メカやアクションはかっこよく、ヒロインは萌える、期待どおりのガ…

桜庭一樹と鴻巣友季子のすれ違いについて思ったこと

この記事でご紹介いただいたのですが、わたしの原稿に〝介護中の虐待〟は書かれておらず、またそのような事実もありません。わたしの書き方がわかりづらかったのかもしれず、その場合は申しわけありません。影響の大きな媒体であり、とても心配です。否定さ…

究極のローカルとは——小松理虔『地方を生きる』

地方を生きる (ちくまプリマー新書) 作者:小松理虔 筑摩書房 Amazon 究極のローカルとは、自分の人生だ。 『地方を生きる』のあとがきにこう記した筆者自身「うお、そうか、まじか、と怯んで」いるが、読者の私も怯んだ。ここまで、筆者の経験と悩みと思考を…

(神の)存在を問う営み——『若い読者のための哲学史』

若い読者のための哲学史 【イェール大学出版局 リトル・ヒストリー】 作者:ナイジェル・ウォーバートン すばる舎 Amazon 初めに述べておけば、私は哲学に関しては、学部で専門としていた程度の専門性もない素人なのだが、とはいえ文系で大学院まで進んでしま…

映画『返校』がホラー映画である意味を考える

台湾映画の『返校』を見てきた。原作のゲームはデモ版? だけプレイしたことがあって、デモ版の序盤しかプレイしていないのかもしれないが、雰囲気はホラーだったもののお化けとかは出てこなかったから、雰囲気だけホラーなのかと思いつつ見にいったのだが、…

アラサーになって『グレート・ギャツビー』を読み切る

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー) 作者:スコット フィッツジェラルド 中央公論新社 Amazon フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』村上春樹訳を読み終えた。この小説は高校生か大学生の時にも読もうとして挫折した記憶がある。それは村…

現実に負けている映画『そうして私たちはプールに金魚を、』

前々から気にはなっていたのだが、映画『そうして私たちはプールに金魚を、』をようやく見た。公式サイトから見ることができた。公式サイトを見ると仰々しい煽り文句が並んでいるが、改めて見ると、白けた気持ちになる。 狭山——埼玉、東京郊外、ロードサイド…

善悪の彼岸の動物たち――芥川龍之介「羅生門」

芥川龍之介「羅生門」を読んでいると、たくさんの動物たちが出てくる。例えば蟋蟀や、鴉や、「狐狸」。しかし、そうした動物たちは、例えば羅生門に死体をついばむために集まり糞を残していた鴉は「刻限が遅いせいか、一羽も見え」ず、風が夕闇とともに吹き…

『シン・エヴァンゲリオン』シンジの新しい恋人について(ネタバレあり)

エヴァンゲリオン新劇場版には、真希波・マリ・イラストリアスという、アニメ本編には出てこないキャラクターがいた(漫画版のキャラクターではあるようだ)。萌える(?)女性キャラクターで、私もなかなか好きにはなったが、しかし、彼女は何のために登場…

『シン・エヴァンゲリオン』に泣く(微ネタバレ)

『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を見てきた。まず、これまで見たことのない映像だと感じた。斬新なメカ描写で、斬新な戦闘描写だった。しかし、作品の出来としてどうこうではなく、すべてを理解してしまったという感覚があった。号泣した……と書きたいと…

母と亡父の往復書簡、その文体と「打ち言葉」

実家に帰り、母と亡き父の残っている手紙を母が出してきて何枚か拝読した。「この手紙がつくのは三日頃だろうから、僕はまだ山にいるわけだ。信州の山は夜は冬みたいだそうです。」「航空券は早めに取ってください(君は少しのんびりだから)」などという文…

「恋愛しないので」――田島列島『水は海に向かって流れる』

[まとめ買い] 水は海に向かって流れる 作者:田島列島 メディア: Kindle版 1巻 久々に読むのに時間のかかる漫画を読んだ。薄味の画風には嫌味がなくいつまでも見ていられる。なぜ見ているのかといえば、画力がすごいとか、描き込みがすごいとか、そうした凄さ…

通学路は学校か?

制服の話 最近、学校制服が何かと話題になっている。私自身、制服のない、完全私服校を出て、こうして立派な大人になったわけで、制服指導の意義のよくわからないところもあるのだが、一方で、きちんとした格好の意味・価値を尊重する気持ちにも共感できるし…

「学校の勉強だけで」「一つの参考書を完璧に」/複数の正解の困難

少なくとも公立の進学校の教員たちはよく、「学校の勉強だけで」難関大にも行けるのだと口にし、実際に、塾なんかには通わずしかも学校の教材だけで難関大に合格していく人もいて、恐ろしいことだと思っていたのだが、しかし自分で難関大の問題を解いている…

知識人と大衆のジレンマ

知識人と大衆の関係には、解決困難なジレンマが存在しているようだ。有り体に書いてしまえば、大衆に合わせていては知識人の高度な知的営為は困難だが、大衆を無視していては、やはり知的営為を維持することはできないというもので、このジレンマには様々な…

恐怖指導の思い出

ここ数日、noteの更新を(現実には勉強を)サボっている。積み重なる実感のない積み重ねは厳しい。その点、学生の時分というのは恵まれたもので、しかし、その頃も私は積み重ねに精を出すようなことはたいしてなかったなぁと思い出す。 時たま口にしつつ、「…

大学入学共通テスト2021を解く

総評 共通テストを解いて感想を述べてみた。入試の専門家ではないから、個人的な感想になるが、難易度はこれまでとさほど変わらず、これまでどおりの勉強の成果がこれまでどおり出るような試験だったのではないか。解答時間は受験生にはやはり厳しいものだろ…

死者と語らう――夏目漱石『こころ』

生徒たちの『こころ』の読解の様子を見ていると、案外、Kの自殺の原因を、「先生」=「私」による裏切りやそれに伴う失恋などではなく、K自身の信念にK自身が背いたことに置く。「教科書」どおり(?)信念に反して矛盾を抱えてしまったこと、その矛盾を…

「現代文単語/キーワード」に関する参考書について、今のところのベスト

読解 評論文キーワード 改訂版 ――頻出270語&テーマ理解&読解演習54題 (教科書関連) 作者:哲也, 斎藤 発売日: 2020/10/09 メディア: 単行本(ソフトカバー) 私が高校生だった頃は意識したこともなかったのだが、世の中には「現代文単語」とか「現代文…

行き場としての死者とまだ生まれていない者――諏訪敦彦『風の電話』

風の電話 発売日: 2020/10/26 メディア: Prime Video 諏訪敦彦監督の『風の電話』を観た。広島の原爆の物語から始まり、父親のいない(おそらく死んでしまっている)高齢出産、性的暴力未遂、難民の物語(日本の入国管理の問題)、そして東日本大震災の傷へ…

信じる/ない——今村夏子『星の子』

星の子 (朝日文庫) 作者:今村 夏子 発売日: 2020/01/31 メディア: Kindle版 「うそいわないで」「うそじゃない。容器の裏引っくり返して見てみろ。おれのサインが入ってるのは中身全部水道水だ」 母が段ボールの中から一本取りだし、容器を逆さにすると、そ…

Google Earthで『土佐日記』を追う

暇つぶし、ではなく教材研究の一環として、Google Earthで『土佐日記』に登場する地名をチェックしてみた。そんなに凝ったものではないし、旅程は教科書や資料集なんかにも図入りで載っていて、特に新たな発見があるわけではないのだが、行ったことのない土…