「恋愛しないので」――田島列島『水は海に向かって流れる』

1巻

久々に読むのに時間のかかる漫画を読んだ。薄味の画風には嫌味がなくいつまでも見ていられる。なぜ見ているのかといえば、画力がすごいとか、描き込みがすごいとか、そうした凄さというのは私には判断できず、そうではなくて、画と台詞による巧みな心理描写に心打たれ、ページをめくれなくなってしまうのである。ページをめくれない……これこそ本の醍醐味である。

しかし、ヒロインの「26歳OL」という設定の美しさよ。若すぎず、かといって妙齢の女性が、「恋愛しないので」と呟くその後ろ姿よ。それでいて主人公の高校生男子や周囲には恋愛の主体/客体として見られてしまう(「〜の彼女かな」、あるいは近寄られて赤面する主人公)。あるいは、恋愛というものは、望むと望まざるとにかかわらず、参加させられる、あるいは舞台にのせられる、そういうものなのかもしれない。これもまた恋愛の苦しさの一側面であり、場合によってはこれは、希望でもあるだろうが、仮にこの漫画の物語にハッピーエンドが待っているとして、それは恋愛によるものなのか、それとも恋愛から離れたところにあるのか、どちらにせよ先の楽しみな漫画である。

 

2巻

エモと笑いのテンポ感。2ページに一度くらい立ち止まらせる力がある。

 

3巻

恋愛をする人間の人生の大部分が(誰かとは)恋愛をしない理由に振り回されている可能性を感じさせる漫画であった。一人と恋愛をするという恋愛の基本的な形態も、裏返せば他の人と恋愛をしないということだ。