長く気持ち悪く痛々しい良質のライトノベル——『イリヤの空、UFOの夏』

この小説はタイトルに反して?驚くほど爽やかではない。そしてライトでもない。

まず設定や登場人物たちが爽やかではない。軍事政権下のような情勢で、中学生と設定された彼ら彼女らは平気で汚い言葉を口にし、欲望をむき出しにし、暴力を振るい合い、オナニーし、精神を病み、血を流す。

そして長い。描写が長く、本筋から外れた?サイドストーリーが多く、ヒロインの状態の悪化はほのめかされるが、いつまでたっても核心に至らない(核心に至るのはその3末〜その4である)。そしてその描写が気持ち悪く、痛々しい。例えば食事。

もう何を食っているのかよくわからない。口の中は火傷にまみれていたし、唇は顔からはみ出すくらいに膨れ上がっているような気がする。それでも食う、レンゲの中身を口の中に押し込み、咀嚼して飲み下す。脳はすでに、口の中にある物が食物であるという認識をしない。それはただのぐちゃぐちゃとした固形物にすぎなくて、腹の中に地獄が詰まっているような満腹感ではなく、ましてや味や匂いでもない、口の中に感じる重さと歯ごたえに救いようのない吐き気を覚える。

例えば痛々しい、体内から発信器を取り出す次の描写。

 刃を進めた。
 恐怖の悲鳴を上げた。
 悲鳴はタオルに吹き込まれる呼気となり、滴り落ちる唾液となって膝を濡らした。
 等身大で先の想像がつく、まさに最悪の恐怖だった。その恐怖に比べたら、傷がもたらす苦痛など物の数ではなかった。自分はこれからどうなってしまうのか。今度のこれは汗ではない、シャツの肩口に染み渡っていく生温い感触。どんどんあふれてくる。肩にホースで血を浴びせられているような気さえする。恐怖が苦痛で苦痛に恐怖する。

こんな描写が引用の比ではなく長く続く。そして引用からわかるように独特の文体(下手さ)が読みがたさを増す。

しかし、やはりこの小説に重要なのは、この下手な、気持ち悪く痛々しい描写の長さ、サイドストーリーの多さなのだろう。終盤、主人公はヒロインにエレベーターから「落とされ」るのだが、物語上も、まさに主人公とそれに感情移入してきた読者を突き落とすようなエンディングに向かっていく。しかし、その突き落としが突き落としであるためには、そこにたどり着くまでの長さが必要であったし、その決して爽やかではない気持ち悪さ、痛々しさは、読者の現実世界、あるいは思春期の爽やかではないあの生々しさでもある。物語において突き落とされると同時に、小説からも読者は突き落とされる。そうした体験をもたらすべく書かれたかのような、エグい——もちろん、良い意味で——小説である。