大学入学共通テスト2021を解く

総評

共通テストを解いて感想を述べてみた。入試の専門家ではないから、個人的な感想になるが、難易度はこれまでとさほど変わらず、これまでどおりの勉強の成果がこれまでどおり出るような試験だったのではないか。解答時間は受験生にはやはり厳しいものだろう。

現代文

小説の問題が特にそうであったが、共通テストにはどうも、古典的な読解——つまり、作者が作品にこめたある一つの倫理的な思いを読み取る・評論が明らかにする世界の真の様相を読み取るというような読解から脱却し、例えば今回の小説問題に付された資料は作品の失敗を批判するもので、それに対する反論も求められているように、読解の相対化を求めるような方向性があるように見える。これは非常に「現代的」な方向性で、負の方向に行き過ぎれば現代の「ポスト・トゥルース」の問題へと繋がっていくわけだが、読解の相対化は批判能力と密接に関わるものであり、国語の教育現場にも、そうした学びが要求されているのだろう。また、評論の問題に芥川龍之介の小説「歯車」の一節が引用されていたが、初めて入試問題で文学を批評するような頭の使い方を要求されたように思う(勿論、私の知らないところで出題されている可能性はおおいにあるが)。

古典

案外これまでとさほど変わらず。内容自体は易しいもので、論の筋、心情変化の筋が掴めれば、内容に関する問題はすんなり解けてしまい、「新傾向」だからといって難しさはないが、「新傾向」はかつてのものよりも解いていておもしろい(個人的な感想か? 多くの受験者がそう感じるものと信じたいが……「複数テキスト」は授業に取り入れてもやはりおもしろくなる)。古文の和歌に関する問は、本文の異同に触れているものといえる。このこともまた、唯一の正当性(正当な読みと、それを担保する正当な本文)から相対性への方向性を感じさせる。

一方で、単純に知識を問う問題(語彙・文法など)はやはり出題されており、これらは基本的に知らなければ解けない。読解問題のように見えて、最後は単語を知っているかどうかで決まる問題もある(「よろしき人」の問など)。無論、内容理解から推測することはできるが、問題となっている箇所を抜かして内容を完璧に理解できたとしても、確実に答えを出せるとは限らない。というわけで、相変わらず暗記は必要なようである。

各大問について

評論 香川雅信江戸の妖怪革命』(芥川龍之介歯車」)

まずは「リアルなもの」としての「古典的な妖怪」と「フィクションとしての妖怪」の対比を読み取り、続いて近代における、近代において認識され始めた人間の不安定さに由来する「リアルなもの」としての「妖怪」の回帰を読み取る。フーコー精神分析といった現代思想のキーワードに親しんでいると、よくある議論といった感じがするが、親しんでなくとも、ある概念が歴史的に形成された、といった議論は、教科書の文章にもある、かもしれない。

いつもどおり易しい問題が並び、問5がセンター試験よりも凝ったものになっているが、(ⅰ)はいわゆる意味段落の役割の理解、(ⅱ)主旨のまとめ、(ⅲ)小説「歯車」を具体例として、やはり評論本文の主旨を見極めるもの、となっている。(ⅰ)(ⅱ)は問われるものはセンター試験と大差ないが、(ⅲ)はやや新鮮で、評論本文にあった「私」の不安定さというものが表現された小説とでも読めれば選択肢も絞れるが、そうした文学の読み方に慣れていないと、難しいか?

小説 加能作次郎「羽織と時計」(宮島新三郎「師走文壇の一瞥」)

基本的にはセンター試験の頃と変わらず、心情変化の筋を把握し、選択肢の疵を発見していけば解ける。身の丈に合わない(故に余計に落ち着かない)高価なものを贈られたこと、その結果、見舞いから足が遠のき、それによってますます募る後ろめたさである。目新しいのは問6で、小説の短い批評が提示され、(ⅰ)その内容理解と、(ⅱ)その批評に対する反論として適切な選択肢を選ぶことが要求されている。

古文 『栄花物語

古典が得意でないので現代文以上にたいした分析ができないが、現代文以上にオーソドックスに感じられた。単純に現代語訳することさえできれば内容はさほど難しくない、妻を亡くした夫の悲哀。細かい文法はそれほど問われていないが、これまで同様に古文を読み慣れていないと厳しいとは思う。最後にやはり「複数テキスト」めいた新傾向の設問があったが、単純な和歌の内容の比較で、単純に文語の和歌を語句どおりに読む力だけが問われていたように感じる。しかし、単純な知識を問う問題が、単純に知識を問うているだけに、知識がないと厳しい。

漢文 欧陽脩『欧陽文忠公集』、『韓非子

古典が得意でないので現代文以上にたいした分析ができないが、典型的な「複数テキスト問題」で、読んでいておもしろい、御術における馬と人の心身の合一の重要性を説く韻文と散文。古文もそうだが、内容理解は、本筋さえ捉えられれば簡単なのだが、単純な知識を問う問題が、知識のない私などには難しい。