2013-01-01から1年間の記事一覧

ミステリー戯曲『マクベス』

マクベス (光文社古典新訳文庫) 作者:シェイクスピア 発売日: 2013/12/20 メディア: Kindle版 ミステリー戯曲である。普通に読んでも飽きさせるところのない快作でもあるのだが、ちょっとした台詞が実は続く展開や物語全体を暗示していたり、ちょい役と見せ…

快快「6畳間ソーキュート社会」

快快「6畳間ソーキュート社会」@トーキョーワンダーサイト渋谷 テクノロジーの時代における、演劇という芸術の、そして快快の、プリミティブな魅力。生活を肯定する、優しさに溢れた劇団、演劇。 会場の空間に入ると、中心に畳が六畳敷いてあり、その上には…

小劇場に行くための本

今、演劇が熱い、と演劇に関わる人間が最近よく口にしているのですが、決して内輪だけの熱さではないと私も感じております。演劇に関しては、劇団四季とかシェイクスピアとかといった大物のイメージを持たれている方の多い気がしますが、しかし、今、熱いと…

綿矢りさ『蹴りたい背中』は二度蹴られる。

蹴りたい背中 (河出文庫) 作者:綿矢 りさ 発売日: 2007/04/05 メディア: ペーパーバック 蹴りたい背中は二度蹴られる。一度目は嫌悪感からであった。では、二度目は……? さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから…

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『ゴミ、都市そして死』

ゴミ、都市そして死 (ドイツ現代戯曲選30 第25巻) 作者:ライナー・ヴェルナー ファスビンダー 発売日: 2006/12/01 メディア: 単行本 舞台は「月面上、というのも月は地球のとりわけ都市部と同じく人の住めないところだから。」。人の住めないところたる都市…

ポーリーヌ・レアージュ『完訳 Oの物語』高遠弘美訳

完訳Oの物語 作者:ポーリーヌ・レアージュ 発売日: 2009/07/01 メディア: 単行本 澁澤龍彦訳のファンたちによる本書へのレビューを見ていると、彼らがいかに、『O嬢の物語』の幻想を消費していたかが見えてくる。その幻想は時に、この高遠弘美による『完訳』…

演劇は現実を変えられない――東京デスロック『シンポジウム』

東京デスロック『シンポジウム』について。レポートとして提出したりしたものの改稿です。 東京デスロック『シンポジウム』について考える前に、彼らが今年の一月に行った『東京ノート』の公演を思い出さなければならない。 平田オリザの戯曲『東京ノート』…

十年後と一年後——『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』

劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(フジテレビオンデマンド) 発売日: 2016/02/01 メディア: Prime Video 『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(公式サイト)、アニメ版についても感想を書いてたりする(こちら)のですが…

宮崎駿『風立ちぬ』

風立ちぬ [Blu-ray] 発売日: 2014/06/18 メディア: Blu-ray 普通のユーザーの感覚からすれば、風立ちぬは、戦争産業に従事したり恋人が結核で苦しんでたりするのにまったく主人公に葛藤がないのでびっくりするし、ちょっと共感しがたい(どこに共感すればわ…

マームとジプシー『cocoon』

マームとジプシー『cocoon』(8/6観劇) 先に原作である今日マチ子の漫画作品について語るべきなのかもしれないが、記憶が薄れてしまう前に藤田貴大作・演出『cocoon』について、覚書、というか思考のダダ漏らし。考えることが多すぎて全然まとまりません。…

東京デスロック『シンポジウム』

東京デスロック「シンポジウム」@富士見(7/28) これは演劇だろうか? こう思う者も多いだろう。私も芝居の始まってからの一時間は、そのような疑問を抱いた。 小さな空間、左右の壁際に四つと五つの椅子が用意されていて、前方には司会者の椅子と机がある…

FUKAIPRODUCE羽衣「Still on a roll」

FUKAIPRODUCE羽衣「Still on a roll」(7/11観劇) FUKAIPRODUCE羽衣は、ホームページによると「作・演出・音楽の糸井幸之介が生み出す唯一無二の「妙―ジカル」を上演するための団体」である。これくらいのことも調べずに第16回公演「Still on a roll」を観…

シベリア少女鉄道「遙か遠く同じ空の下で君に贈る声援2013」

シベリア少女鉄道「遙か遠く同じ空の下で君に贈る声援2013」作・演出:土屋亮一 2013年7月3日〜14日@王子小劇場 観て来ました。おもしろかった。再演らしいのですが、小耳に挟んだ情報によるとけっこう変わってるらしいですよ(噂。僕は今回しか見ていないの…

ロロ「ミーツ」、ハイバイ「て」、燐光群「帰還」、白山羊の会「効率の優先」

ロロ「ミーツ」、ハイバイ「て」、燐光群「帰還」、白山羊の会「効率の優先」の四本を観ました。岡崎芸術座「ブラックコーヒー」も観に行きたかったのですが日程が合わず断念。観たかったよ……。 ロロ「ミーツ」素直じゃない物語。奇妙な怪獣に出会った少年の…

村上春樹「バースデイ・ガール」について 国語科の観点も少し

バースデイ・ガール 作者:村上春樹 発売日: 2017/11/30 メディア: 単行本 先日、教職課程の講義中に行われた模擬授業において、村上春樹の「バースデイ・ガール」を扱った学生がいた(あらすじなどはwikipediaなどを参照してほしい)。村上春樹編・訳による…

新海誠『言の葉の庭』

言の葉の庭 発売日: 2014/11/15 メディア: Prime Video 新海誠監督の最新作『言の葉の庭』観てきましたーので行き当たりばったりに感想を。 簡単にあらすじを説明すると、まああんまり学校に行きたくない少年(友達とかは普通にいる)が雨の日、公園で朝から…

維新派「レミング ~世界の涯までつれてって~」ままごと「朝がある」ポーラは嘘をついた「余白」水族館劇場「あらかじめ喪われた世界へ」

五月は学業が忙しく(ほんとか?)劇評、というか劇を見ての感想的なメモ的な何か、を書いてなかったのでまとめてかるーく書いておきます。 ■レミング ~世界の涯までつれてって~(公式HP)作・寺山修司 演出・松本雄吉(維新派) PARCO劇場寺山修司没後30年…

マームとジプシー「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」

マームとジプシー「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」作・演出:藤田貴大 4/16〜5/1 十六夜吉田町スタジオ 長いタイトルですね。 僕がこのタイトルの公演を見…

「戦争」がこれから始まる——本谷有希子『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫) 作者:本谷有希子 発売日: 2016/02/05 メディア: Kindle版 本谷有希子は元々、舞台の人間であった。上京してENBUゼミナール演劇科に入学し、師はあの俳優・劇作家、松尾スズキである。しかし『腑抜けども、悲し…

犬と串『左の頬』

犬と串case.10『左の頬』 作・演出:モラル2013年4月10日 (水)~21日(日) シアター風姿花伝 犬と串、今回観に行ったのは、何かの雑誌(何の雑誌だっけ)で彼らの前回公演『さわやかファシズム』について軽く触れている文章を読んで、おもしろそうなことやっ…

『会田誠展:天才でごめんなさい』

三十路―会田誠第二作品集 作者:会田 誠 メディア: 単行本 会田誠展:天才でごめんなさい 何にもなびかない。すべてに「いや、」と言う。あらゆるものをひっくり返す。そんな印象を受けた。 会田誠は何でもひっくり返す。彼がひっくり返すのは、見せたい反対…

中森明夫『アイドルにっぽん』

アイドルにっぽん 作者:中森 明夫 メディア: 単行本 アイドル語り歴の長い筆者の、往年の美少女アイドル論を中心とした論考集成。現在語られている論点のうちのいくらかは既に彼によって書かれていた、というのも多いし、論としての質はさておき、彼の鋭さが…

夜の朝ドラ——廣木隆一『きいろいゾウ』

きいろいゾウ 発売日: 2013/11/26 メディア: Prime Video 妻・宮崎あおい、夫・向井理。朝ドラ的な配役である。『純情きらり』のヒロイン宮崎あおいの持っていた離婚騒動以前の圧倒的な「清純」イメージは往年の、そして今なお多数のCM出演の数からも認めら…

2013年1月のまとめ

一月が終わってから五日目となってしまいました。早いものです。もう一月の記憶は薄れています。毎日が濃すぎて。いやほんとに。一月は、まあテストやレポートが忙しくて、文化的なことはあまりできなかったですね。 まず演劇なんですが、新宿梁山泊「少女仮…

フェミニストSFについて 『女性状無意識』『闇の左手』『マージナル』

1 フェミニストSFについて 文学とジェンダー/セクシュアリティの関わりを考える上で、フェミニストSFという小さな、しかし数多くの問題作を抱えた一つのジャンルを無視することはできないだろう。そもそも文学とは、文学批評家テリー・イーグルトンによれ…

歌詞をどのように論じるか——『Jポップの日本語 歌詞論』

Jポップの日本語―歌詞論 作者:見崎 鉄 メディア: 単行本 歌詞はどのように語るべきなのだろうか? 通常、Jポップについて語ったものは「音楽批評」と呼ばれることになる。音楽批評の領域にはCDにつくライナーノーツや音楽誌に載るレビューなどがあるが、さら…