2020-01-01から1年間の記事一覧

死者と語らう――夏目漱石『こころ』

生徒たちの『こころ』の読解の様子を見ていると、案外、Kの自殺の原因を、「先生」=「私」による裏切りやそれに伴う失恋などではなく、K自身の信念にK自身が背いたことに置く。「教科書」どおり(?)信念に反して矛盾を抱えてしまったこと、その矛盾を…

「現代文単語/キーワード」に関する参考書について、今のところのベスト

読解 評論文キーワード 改訂版 ――頻出270語&テーマ理解&読解演習54題 (教科書関連) 作者:哲也, 斎藤 発売日: 2020/10/09 メディア: 単行本(ソフトカバー) 私が高校生だった頃は意識したこともなかったのだが、世の中には「現代文単語」とか「現代文…

行き場としての死者とまだ生まれていない者――諏訪敦彦『風の電話』

風の電話 発売日: 2020/10/26 メディア: Prime Video 諏訪敦彦監督の『風の電話』を観た。広島の原爆の物語から始まり、父親のいない(おそらく死んでしまっている)高齢出産、性的暴力未遂、難民の物語(日本の入国管理の問題)、そして東日本大震災の傷へ…

信じる/ない——今村夏子『星の子』

星の子 (朝日文庫) 作者:今村 夏子 発売日: 2020/01/31 メディア: Kindle版 「うそいわないで」「うそじゃない。容器の裏引っくり返して見てみろ。おれのサインが入ってるのは中身全部水道水だ」 母が段ボールの中から一本取りだし、容器を逆さにすると、そ…

Google Earthで『土佐日記』を追う

暇つぶし、ではなく教材研究の一環として、Google Earthで『土佐日記』に登場する地名をチェックしてみた。そんなに凝ったものではないし、旅程は教科書や資料集なんかにも図入りで載っていて、特に新たな発見があるわけではないのだが、行ったことのない土…

「オンライン授業」についてのメモ(コロナ禍で)

オンライン授業について。様々なアプリケーションやサービスが用意されているのだが。一つ思うのは、それらを使って、従来の授業をオンラインで再現しようとする必要はない、というか、そうしようとすべきではないのではないか、ということだ。 従来の、オフ…

「先入観」について(小松理虔『新復興論』の「福島県産品」問題に関連して)

新復興論 (ゲンロン叢書) 作者:小松理虔 発売日: 2018/09/01 メディア: 単行本 先入観を持つことは良くないことだと気がついた。何とか先入観を持たず、誰とでも対等でありたいのだが、どうすればいいか——そのような問いに出会った。 「先入観」が良くない結…

あるいは意図された誤配――岩井俊二『ラストレター』

ラストレター 監督:岩井俊二 発売日: 2020/07/15 メディア: Prime Video 一見さわやかな物語である。福山雅治演じる売れない小説家乙坂が、かつての恋人未咲やその妹裕里との高校時代の恋愛沙汰を思い出し、未咲の娘鮎美ともども未咲の自殺を乗り越え、小説…