小劇場に行くための本

 今、演劇が熱い、と演劇に関わる人間が最近よく口にしているのですが、決して内輪だけの熱さではないと私も感じております。演劇に関しては、劇団四季とかシェイクスピアとかといった大物のイメージを持たれている方の多い気がしますが、しかし、今、熱いと言われているのはそうした商業演劇ではなく、小劇場演劇と呼ばれる、十数名(!)から二、三百人程度の客席しかない劇場でひっそりと行われている演劇です。以下で紹介する本は、もちろん演劇に興味のある・実際に観に行っているという方が読んでも理解が深められおもしろいのですが、専門的では決してなく一般向けに書かれた本なので、演劇なんてまったく知らないという方が読んでも、演劇の世界に入っていける、その手助けをしてくれるものたちです。

 

演劇最強論
徳永京子 藤原ちから

本書のタイトル、『演劇最強論』には、演劇が最強である、と、最強の演劇とは何か、という二重の意味が込められています。内容は、今「熱い」劇作家・演出家へのインタビューと現代の小劇場シーンに対する批評が中心となっていて、ケラリーノ・サンドロヴィッチ宮沢章夫から藤田貴大・柴幸男まで、それなりに幅広く扱っています。それぞれの劇団の手法の位置づけなども行っていて、現在の小劇場を概観するのに適しているのではないでしょうか。個人的には、俳優にも目を向けているのが良いと思いました。好きな俳優を追いかける、というのも素敵な演劇の楽しみ方です(私も追いかけてます)。あと舞台写真集も良い。

 

ユリイカ2013年1月号 特集=この小劇場を観よ2013
野田秀樹 岡田利規 前田司郎 岩井秀人 藤田貴大

こちらも、現在活躍している小劇場の劇作家・演出家を中心に扱った、ユリイカの小劇場特集号です。特に、マームとジプシー主催の劇作・演出家である藤田貴大に重きが置かれているのですが、確かに今一番おもしろい演劇をやっているのは彼だ、と私は思っています。批評家たちによる「この演劇がすごい!2013」という特集が、実際に観に行く公演を選ぶのにとっても実用的です。ここから選べばだいたいおもしろい。

 

日本の現代演劇 (岩波新書 新赤版 (372))
扇田 昭彦

 

少し古い本で、内容も少し古いのですが、日本の現代演劇史に手軽に触れられる新書になっています。合わせて同じ著者の『舞台は語る ―現代演劇とミュージカルの見方 (集英社新書)』も、60〜90年代までの現代演劇史を理解する一助になるでしょう。重く触れるには西堂行人『劇的クロニクル―1979~2004劇評集』がおすすめで、こちらも各公演に対する具体的な劇評だけでなくその次代の概略、のような文章が載せられていて、とても良いのですが、重い(物理的にも)。