『海に住む少女』

 

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

 

 

フランス人の詩人・作家シュペルヴィエル作、永田千奈訳の、ノスタルジーを感じる優しい文体で、心地よい異国情緒が漂う短編小説集。 確かに小説であるが叙景詩的で、はっきりした起承転結があるわけでもなく、言葉によって表現された絵画のようだと感じた。独特で幻想的な美しい世界観、西洋の童話のような限りなく静寂で美しい情景に、どことなく孤独の影がつきまとう、そんな小説群。

 

表題作『海に住む少女』を始め多くは、重たい読後感が残り続けるもので、それがクセになる。かと思えば、『空のふたり』『バイオリンの声の少女』など直球でロマンチックな展開に気恥ずかしさを感じる短編もある。 しかし、喪失感、欠落感といったもの、もしくは死や狂気といった灰色の空気が、ほとんどの短編に共通して存在している。時にはほとんどブラックジョークと言えるような残酷なものもある。しかしながらすべての短編が美しく、重く残るものの嫌な気分になることはない。不思議なものだ。 西洋の文学すべての根幹に聖書が存在している。と誰かが言っていたが、『飼葉桶を囲む牛とロバ』『ノアの箱舟』は、旧約聖書の独自解釈といった内容で、興味深い。

 

上は読書中に取った雑多なメモ、そしてここからいつもの口調に戻りますが、うーん、実に良かった。ブックオフで偶然手に取った一冊(ごめんなさい、少女って単語に弱いんです)でしたが、当たりでしたね。シュペルヴィエルとは聞いたことのない名前でしたが、本業は詩人のようですので、詩集も手にしてみたいものです。しかし、手に入りにくいっぽいですね……。

 

この小説というか、外国文学全般に言えることですが、印象的な一文が散在していておもしろい。『足跡と沼』の本文より印象に残った部分を引用。

 

“男も女も子供たちも、全世界共通で、箱が好きなのです。地球が箱を求めているのです。運命が生まれ、身を潜め、策を弄する場所のひとつが、箱なのですから”

 

パンドラの箱の話はギリシャ神話だったと思いますが、この部分も、『空のふたり』で影の世界にもたらされた箱も、それを彷彿とさせます。確か、箱の最後には『未来がすべてわかってしまう災い』が残ったとかなんとか。そのために人間は希望を持つことができると。僕はそう記憶してましたが、wikidediaで調べてみるといろいろな説があるそうですね。希望を災厄であるとする説とか、おもしろそうです。それにしても、数千年も昔から人間は深いことを考えてたんだなぁと、実感。

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古い記事。高校生の頃に書いたもので、この感想文自体は読むに堪えないのだが、しかし『海に住む少女』は懐かしい。もう読み返すことはないかもしれないから、せめて当時の感想だけは残しておこうと思い。