本を読むための本

この世には、本を読む方法、本の読み方、読書論について述べた本というものが存在している。といっても、批評のための理論書とかではなく、いわゆるブックガイドでもありません。読書という行為そのものに関する本。思い浮かぶのは「速読法」の類かもしれないが、ここではそういうつまらないものではなく、むしろゆっくり読む方法について述べたおすすめの本をいくつか紹介したい。もちろん独自の読み方があってそれでうまくいっている、という方には必要ないのですが、ただなんとなく読んでいる方、効率の悪さを感じている方には役に立つ、かもしれません。

 

『本を読む本』
M.J.アドラー、C.V.ドーレン著 外山滋比古、槇未知子訳 講談社学術文庫

 

「積極的読書」を掲げ、「初級読書」「点検読書」「分析読書」「シントピカル読書」といったレベルに分けた本の読み方を紹介している古典的な「読むための本」。本を読むことは学ぶことである。というと、あっさり了解されてしまうかもしれないが、しかしその学びが単に知識を得ることではなく、理解を深め、「読み手自身を引き上げていく」ことであるべきだということ、そして教室で教師から教わるように、本を読むという行為も「教わる」ものであることは、割と見落とされがちなのではないか。この本で紹介されている読み方は、こうした学びを達成するためのものである。これらのレベルによった読書、特に後半のレベルは、難解で良質な本を読む際、研究のために読む際に限って用いるべきものであり、読む対象の本の重要性等によって応用する術も述べられていて、実用的である。また、このレベルによる読み方とは別に、「小説、戯曲、詩の読み方」という部が設けられているのだが、これがなかなかよい。「文学の影響力に抵抗してはならない」という言葉に要約されているこの部分は、個人的に最も感銘を受けた部分であるし、実際の読書にもとても役だっている。

 

『本はどう読むか』
清水幾太郎著 講談社現代新書

 

エッセイ的な要素の濃い一冊。具体的な方法論というよりも、高名な知識人であり人格者である感覚的抽象的な部分が多く、また意識を高めるのにも役に立ちます。読書会や客観的なノートを取りながらの読書、カードを利用したまとめ方にも一歩引いた考えを述べていて、読書とはなにか、本との向き合い方、本を記憶するとはどういうことかを再考させてくれる本です。具体的な方法論重視の「本を読むための本」を読むと、その方法に縛られて、往々にして本から心が離れてしまうということがあり、自分の経験や本への反応といった主体的な部分からその本に対する深い理解が生まれる、と清水氏は述べています。読書に「ケチ」はいけない、「本は買え」「面白くなければ読むのをやめろ」などとも書いてあり、反省させられます。外国語の本を読むことについても記述があり僕も英語の本を読んでみるか! と意識を高めてみたりしました。あと、この著者は、文章が上手い……。

 

『難解な本を読む技術』
高田明典著 光文社新書

 

現代思想に関わる著作の多い筆者からもわかるように、主に難解な“現代思想書”を読むための技術を紹介した本である。読む本の選び方からはじめ(ここもなかなかよい)、「閉じている/開いている」「登山型/ハイキング型」「同化読み/批判読み」といった観点で読書のタイプを規定し、ノートを作りながら通読と詳細読みという二つの読み方で二度読むことを勧めている。読んだあと、その本を知識の構造の中に位置づける、また「読まない」読書といったものにまで踏み込んでいるのもよい。ノートの見本までのっており、読めばすぐ始められるようになっている。個人的には、付録としてついている代表的難読本ガイドが、難解な現代思想家入門の方法として、非常に役に立った。これから思想を学ぶという方にぜひ、現代思想入門書と共に読んでおくことをすすめたい本です。

 

さて、三冊とも異なった方法論を提示していますが、共通して「読まないですます」技術について語っています。必要でない本は読まない、つまらない本は読まない。ショーペンハウエル「読書について」でも語られていることですね。僕らの時間は有限であり、古典的名著と呼ばれるもののみにしぼったとしても、おそらく多くの人間はすべてを読み終えられないでしょう。大事なことです。

読書法に関する本を三冊も読み馬鹿なのかと思われる方もいらっしゃるとは思いますが、それぞれが僕にとっては意味のある本でしたよ。どれもおもしろく、とても役に立っています。