文学に入門するための本

間違えて文学部に入ってしまう、という事態は実は往々にしてあり得る。文学部にしか通らなかった、国語が好きだから、数学が嫌いだからーーそんな「だから」は、実はありふれているのではないか? そうした、間違えて文学部に入ってしまった人に、そして、間違って文学にやる気を出してしまった人にもとりあえず薦めたい、文学入門書。この本を読んで文学部に決めました、なんて人が出るとかわいそうなので文学部に入る前の人間には薦めない。
 下に行くほど、難しい、というわけでもないのだが、だんだん専門的になっていきます。

 

『ホラー小説でめぐる「現代文学論」―高橋敏夫教授の早大講義録』
高橋 敏夫
宝島社 2007-10-06

 

早大文学部で実際に開かれている講義の記録なのだが、とにかく「まえがき」が良い。文学部で文学をするとはどういうことか、これほど的確に表現している文章もないだろう。文学なんて役に立たない、と思ってしまったときに読むと良い。内容は学部一・二年生向けの理解しやすい批評だが、現代の文学理論の基礎とでも言うべき「異化」への道標もしてくれる。

 

『小説の読み書き』
佐藤 正午
岩波書店 2006-06-20

 

文学、言葉の芸術を扱うとき、まず知っておかなければならないのは、「書く」とはすなわち「書き直す」ことである、という当たり前の事実であるーー『小説の読み書き』はこのテーゼに従って作家である佐藤正午が小説を読んだ実践である。この本における実践程度の読みもできない者が、狭義の文学(純文学?)の系譜に連なる小説を書くのは、不可能であると言っていい。「書く」ことは「書き直す」ことである。それは、書いたものを「読む」必要があることを意味するからだ。

 

私学的、あまりに私学的な 陽気で利発な若者へおくる小説・批評・思想ガイド
渡部 直己
ひつじ書房 2010-07-26

 

文学を勉強してみようと思った人に・恥ずかしいレポートを書かないために、高校生でも理解できるコラムから院生レベルの研究実践まで。後半の論文などは別に読む必要もない、というくらい専門性の高い研究であるように、私には思えるのだが、それはともかく巻末の必読書リストが(それはどうだろう、というのも混じっているが)けっこう役立つ。特に小説に関してはさすがにやはり良い本ばかりだなぁという気がします。

 

現代思想の教科書 (ちくま学芸文庫)
石田 英敬
筑摩書房 2010-05-10

 

その名のとおり現代思想の教科書で、メディア論からフーコー精神分析まで、現代思想の最先端をある程度カバーしている。あくまである程度で、今となっては足りない気もするのだが、一冊で扱っている範囲としては広いだろう。今、文学をやるなら、どれも知って(身につけて)おかなければならない基礎事項である。

 

読むための理論―文学・思想・批評
石原 千秋 木股 知史 小森 陽一 島村 輝 高橋 修 高橋 世織
世織書房 1991-06-15

 

現代の文学研究のほぼ前提となっているテクスト論、その理論のまとめ。もちろんヨーロッパ発祥のテクスト論を輸入してくれた先人研究者に感謝しつつ、この書の中の理論は当たり前のものとして、発展させていくことを考えていかなければならないのであるが、しかし単に利用するだけでも十分なレポートが書けるはずだし、学部を卒業くるくらいならこれくらいの知識で良いのでは、という気もします。