読むこと

綿矢りさ『蹴りたい背中』は二度蹴られる。

蹴りたい背中 (河出文庫) 作者:綿矢 りさ 発売日: 2007/04/05 メディア: ペーパーバック 蹴りたい背中は二度蹴られる。一度目は嫌悪感からであった。では、二度目は……? さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから…

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『ゴミ、都市そして死』

ゴミ、都市そして死 (ドイツ現代戯曲選30 第25巻) 作者:ライナー・ヴェルナー ファスビンダー 発売日: 2006/12/01 メディア: 単行本 舞台は「月面上、というのも月は地球のとりわけ都市部と同じく人の住めないところだから。」。人の住めないところたる都市…

ポーリーヌ・レアージュ『完訳 Oの物語』高遠弘美訳

完訳Oの物語 作者:ポーリーヌ・レアージュ 発売日: 2009/07/01 メディア: 単行本 澁澤龍彦訳のファンたちによる本書へのレビューを見ていると、彼らがいかに、『O嬢の物語』の幻想を消費していたかが見えてくる。その幻想は時に、この高遠弘美による『完訳』…

村上春樹「バースデイ・ガール」について 国語科の観点も少し

バースデイ・ガール 作者:村上春樹 発売日: 2017/11/30 メディア: 単行本 先日、教職課程の講義中に行われた模擬授業において、村上春樹の「バースデイ・ガール」を扱った学生がいた(あらすじなどはwikipediaなどを参照してほしい)。村上春樹編・訳による…

「戦争」がこれから始まる——本谷有希子『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫) 作者:本谷有希子 発売日: 2016/02/05 メディア: Kindle版 本谷有希子は元々、舞台の人間であった。上京してENBUゼミナール演劇科に入学し、師はあの俳優・劇作家、松尾スズキである。しかし『腑抜けども、悲し…

中森明夫『アイドルにっぽん』

アイドルにっぽん 作者:中森 明夫 メディア: 単行本 アイドル語り歴の長い筆者の、往年の美少女アイドル論を中心とした論考集成。現在語られている論点のうちのいくらかは既に彼によって書かれていた、というのも多いし、論としての質はさておき、彼の鋭さが…

2013年1月のまとめ

一月が終わってから五日目となってしまいました。早いものです。もう一月の記憶は薄れています。毎日が濃すぎて。いやほんとに。一月は、まあテストやレポートが忙しくて、文化的なことはあまりできなかったですね。 まず演劇なんですが、新宿梁山泊「少女仮…

フェミニストSFについて 『女性状無意識』『闇の左手』『マージナル』

1 フェミニストSFについて 文学とジェンダー/セクシュアリティの関わりを考える上で、フェミニストSFという小さな、しかし数多くの問題作を抱えた一つのジャンルを無視することはできないだろう。そもそも文学とは、文学批評家テリー・イーグルトンによれ…

歌詞をどのように論じるか——『Jポップの日本語 歌詞論』

Jポップの日本語―歌詞論 作者:見崎 鉄 メディア: 単行本 歌詞はどのように語るべきなのだろうか? 通常、Jポップについて語ったものは「音楽批評」と呼ばれることになる。音楽批評の領域にはCDにつくライナーノーツや音楽誌に載るレビューなどがあるが、さら…

今『メモランダム 古橋悌二』を読んで

メモランダム 古橋悌二 発売日: 2000/11/01 メディア: 単行本 ダムタイプを結成し、「pH」「S/N」といった作品を生み出した古橋悌二は、その偉大な作品群をもって、「芸術は可能か?」「アートは有効な表現手段か?」という問いを発した。そして、「我々現代…

村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫) 作者:春樹, 村上 発売日: 2002/02/28 メディア: 文庫 サークルで「かえるくん、東京を救う」を読んだついでに全部読みました。村上春樹作品を読んで簡単に思いつくようなことはすべて既に語られてしまっていると思うの…

本を読むための本

この世には、本を読む方法、本の読み方、読書論について述べた本というものが存在している。といっても、批評のための理論書とかではなく、いわゆるブックガイドでもありません。読書という行為そのものに関する本。思い浮かぶのは「速読法」の類かもしれな…

奥ゆきを手に入れる——川上未映子『ヘヴン』

ヘヴン (講談社文庫) 作者:川上未映子 発売日: 2014/11/14 メディア: Kindle版 いじめを描いた作品、という情報を持っていたために、いじめを主題とした小説として読んでしまった。しかし『ヘヴン』は、ただのいじめを描いた社会派の小説ではないのだろう。…

批評とはなにか——高橋敏夫『絶滅以後』

絶滅以後―閉じられてゆくステージで 作者:高橋 敏夫 発売日: 1997/05/01 メディア: 単行本 「批評とはなにか。」いまとここを嫌悪の主体による。いまとここを保守する者に批評はありえない。いまとここは変更可能である。にもかかわらず、単一性と固定制を人…

「障害/健常」の超克にむけて——『さっちゃんのまほうのて』

さっちゃんのまほうのて (日本の絵本) 作者:たばた せいいち 発売日: 1985/10/01 メディア: 単行本 さっちゃんは生まれつき右手の指の欠損した少女であるが、最初のページからしばらくは、読者がその欠損に気づくことはないであろう。6ページでさっちゃんの…

戦国時代のアイドル——『アイドル10年史』

映画秘宝EX激動!アイドル10年史 (洋泉社MOOK) 発売日: 2012/03/21 メディア: ムック 今流行っているアイドルたち、少し前に流行って消えたアイドルたちの背景、アイドル史的な位置を概観できる書。「20世紀アイドル前史」なんて記事もあり、アイドル史を学…

角田光代『八日目の蝉』

八日目の蝉 (中公文庫) 作者:角田光代 発売日: 2012/12/19 メディア: Kindle版 本っ当に男のいない小説である。この小説の母親にとっては、家族=母と子でしかない。母も娘も、男を父親として見ていない。作中において子を育て見守るのはエンジェルホームの…

やまむらはじめ『夢のアトサキ』

夢のアトサキ (ヤングキングコミックス) 作者:やまむらはじめ 発売日: 2014/10/01 メディア: Kindle版 大学に入って、夏の盛り、地元のブックオフで出会ったのがこの漫画、『夢のアトサキ』です。やまむらはじめといえば近頃アニメ化された『神様ドォルズ』…

入間人間『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん ライトノベル 全12巻 セット メディア: 文庫 全十巻、読み終えたのでちょっと感想をば。ちょっと間を置いて書いているのでいろいろあれです。ネタバレもあるよ。 全体として……冗長な感じ。10巻も必要だったのかなぁ……。あ…

伊藤計劃『虐殺器官』

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) 作者:伊藤 計劃 発売日: 2012/08/01 メディア: Kindle版 タイトルよりもずっと静かで、そしてタイトルよりもずっとおそろしい小説でした。妙な期待とともに手にとったためか妙な読み方をしてしまい結果としてあまり楽しめず、それ…

寺山修司『書を捨てよ、町へ出よう』

書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫) 作者:寺山 修司 発売日: 2012/10/01 メディア: Kindle版 ■第一章 書を捨てよ、町へ出よう 痛快で好きな文章ではあるが中身としては、おもしろい見方もあるが、しょうもないことも書いているなぁと思った。僕は若くして保…

羽海野チカ『ハチミツとクローバー』

ハチミツとクローバー コミック 全10巻完結セット (クイーンズコミックス―コーラス) 作者:羽海野 チカ 発売日: 2006/09/08 メディア: コミック 恋をすると女の子はキレイになるっていうけれどダメだな男は――――カッコ悪くなるばかり……… 2巻の真山のセリフ。…

こうの史代『夕凪の街 桜の国』

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス) 作者:こうの史代 発売日: 2012/09/07 メディア: Kindle版 “わかっているのは「死ねばいい」と誰かに思われたということ” つい先日アメリカのオバマ大統領がプラハ演説において『核廃絶』をうたいノーベル平和賞を授…

『竹取物語』

竹取物語(全) ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫) 作者:角川書店 発売日: 2012/11/05 メディア: Kindle版 男もすなる日記といふものを・・・・・・といえば紀貫之の土佐日記ですよ。紀貫之は竹取物語の作者なんじゃないかって説があ…

『若山牧水歌集』

若山牧水歌集 (岩波文庫) 発売日: 2004/12/16 メディア: 文庫 “人生は旅である。我等は忽然として無窮より生れ、忽然として無窮の奥に往つてしまふ。” 上は歌人、若山牧水が歌集『獨り歌へる』に自序として記したもの。 若山牧水といえば明治後期~昭和前期…

『海に住む少女』

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫) 作者:シュペルヴィエル 発売日: 2006/10/12 メディア: 文庫 フランス人の詩人・作家シュペルヴィエル作、永田千奈訳の、ノスタルジーを感じる優しい文体で、心地よい異国情緒が漂う短編小説集。 確かに小説であるが叙景詩…