誰が泣いているのか――マームとジプシー夜三作「夜、さよなら」「夜が明けないまま、朝」「Kと真夜中のほとりで」

彩の国さいたま芸術劇場にて、2016年2月18日、初日に観劇。 ただ、この芝居について文章を書くだろうというつもりがなくメモもほとんどなく、この文章を書き始めたのは観劇の次の日の朝で、私の場合、一日経てば記憶は十分に曖昧になる。劇場で上演台本なん…

感想:モネ展 「印象、日の出」から「睡蓮」まで

モネ作品集 作者:裕雄, 安井 発売日: 2019/03/12 メディア: 大型本 東京都美術館でモネ展を観てきた。美術については素人なのだが(あらゆることについて素人なのだが)、思ったことのメモなどを書いておきたい。 『印象・日の出』を見れなかったのだが、し…

人は死ぬ/なかなか死なないことと向き合う

何か創作のヒントがないかと、古いメモを見返していたら、高校時代に構想した小説のプロットが出てきた。その小説では、少女が白血病で死ぬことになっていて、笑ってしまった。もう、白血病で若い子は殺せない。 人は病に殺され続けてきた。もちろん今でも人…

川越祭り

2015-10-21 2015年10月18日 川越祭り 仕事の帰りにふらっと。子供や若者やカップルや夫婦たちが大勢はしゃいでいて、スーツを着ていたのもあって居心地が悪かったのだけれども、ふらふら漂っているうちに楽しくなってきた。日々都心へと出かけていくので地元…

神/映像になったμ's――劇場版『ラブライブ!』

ラブライブ!The School Idol Movie 発売日: 2017/07/28 メディア: Prime Video 劇場版『ラブライブ!』を観てきた。基本的にあまり楽しめなかった。ひとつ考えたことがあったので感想といっしょに書いておく。 感想まずこれは、ストーリーにそれほど意味のあ…

マームとジプシー『cocoon』再演について

マームとジプシーによる『cocoon』の再演について、呟いたことなどを。 まず、私がマームとジプシーの芝居を見たら毎回言うことなので、もう書く必要もないのではとさえ思ってしまうのだが、すごく良かった。俳優たちも素敵だし演出も洗練されているし、感情…

蔦哲一朗『祖谷物語―おくのひと―』

祖谷物語-おくのひと- 発売日: 2015/08/04 メディア: Prime Video 早稲田松竹で観てきました。すげー良かった。一面の緑の中の、一面の白の中の武田梨奈の美しさよ……。これはストーリーをなぞるタイプの感想文です。 この映画には、決して姿は現さない、けれ…

山本政志『水の声を聞く』

水の声を聞く [DVD] 発売日: 2015/10/02 メディア: DVD ただただダークな映画である。"悪い"人々が勝ち、"善い"人々は救われない――いや、この映画を善い/悪いの枠組みで捉えるべきではないだろう。『水の声を聞く』の物語を動かす二項対立は真/偽、本物と…

「一度だけ」のリフレイン——マームとジプシー『カタチノチガウ』

「一度だけしか話さないから、よく聞いてほしいんだけど」――『カタチノチガウ』は長女・いづみの、次女・さとこに向けられたこんな台詞から始められる。 マームとジプシーはリフレインと呼ばれる、場面の反復を特徴とする演劇で知られている。そしてリフレイ…

来ないで——『ワンダフルワールドエンド』

ワンダフルワールドエンド 発売日: 2015/06/24 メディア: Prime Video 大森靖子「ミッドナイト清純異性交遊」「君と映画」のPVを発展させたような映画で、私のまわり(?)では大森靖子が出ているとか大森靖子が主題歌だというところで話題になっていたよう…

pura vida / the ridge――『アンナプルナ南壁 7400mの男たち』

アンナプルナ南壁 7400mの男たち(字幕版) 発売日: 2015/06/02 メディア: Prime Video 期待していた程おもしろくなかった。というのも僕は『アンナプルナ南壁 7400mの男たち』というタイトルを見て素直にアンナプルナの雄大な姿を期待していたのだ。しか…

“市川由衣の映画”――安藤尋『海を感じる時』

海を感じる時 発売日: 2015/04/03 メディア: Prime Video 池松壮亮と休憩中に懇談。洋が「女を殴る」ことについて、洋がイヤな男にしか見えなかったら映画として辛い、と私は危惧したが、池松はその「匙加減」には確信があるようだった。「ボクが邪魔をしな…

「Our Planet」と「My Planet」/演劇を記録すること――ままごと『わたしの星』

8月25日、観て来ました。高校生演劇とか、そういうのを抜きにして大変良かった(巧みな戯曲だったし、高校生というネームバリューのいらない俳優ばかりだった)。感想を書いておきます。 1,「Our Planet」と「My Planet」 『わたしの星』の舞台は近未来の…

『演劇をめぐる大雑談会vol. 5 ゲスト藤田貴大』メモ・感想

『演劇をめぐる大雑談会vol. 5』という、早稲田の水谷八也教授の企画している講演会に藤田貴大が来るというので、聴いてきました、のでメモと考えたこと(発言は正確な引用ではない場合があります。すいません……)。 隣に後輩の女の子が座っていたのだが、藤…

ミノタウロスなき〈迷Q〉——Q『迷迷Q』

Q『迷迷Q』@こまばアゴラ劇場、4/25観劇。 Qの前作『いのちのちQⅡ』を私は、〈O〉の演劇として観た(「Qは「形」を問う――Q『いのちのちQⅡ』」)。「ニンゲンの世の中」すなわち地球と、それに依存した暦、時計、社会制度、そして再生産の「形」、〈O〉。『迷…

シベリア少女鉄道『あのっ、先輩…ちょっとお話が…ダメ!だってこんなのって…迷惑ですよね?』

シベリア少女鉄道『あのっ、先輩…ちょっとお話が…ダメ!だってこんなのって…迷惑ですよね?』を観たので感想。 テレビドラマ的にシリアスな物語(三角関係とか、先生と生徒の恋愛、未成年の年上男性とのセックス、とか)を、シベ少特有の高度にくだらない笑…

範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』

範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』、東京芸術劇場シアターイーストで、観て来ましたので感想のメモ。 良い。センスの良いユーモアと、鋭さ。僕の読み取れた限りの本作の持つテーマに目新しさはそれほどないかもしれないが、見せ方はかなり洗練されて…

夏目漱石『坊っちゃん』の「だから」はなぜ「日本文学史を通して、もっとも美しくもっとも効果的な接続言」なのか

日本語学の演習のレポート。 1,はじめに 「親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。」から始まる夏目漱石『坊っちゃん』の冒頭部は名文、名書き出しとして広く親しまれているがで、この小説の結尾の部分もまた、冒頭部ほどではないにしても、名文と…

山戸結希『5つ数えれば君の夢』

5つ数えれば君の夢 発売日: 2014/12/03 メディア: Prime Video 山戸結希監督、東京女子流主演の映画『5つ数えれば君の夢』。東京女子流が最大の目当てだったわけですが、監督の山戸結希がサブカル界隈で話題になってた気もしたので、観に行きましたので軽く…

「遺言」について

学生だった頃、講義で提出したレポート。ひどいものだ……。 --- 文芸評論家・井口時男は、鮎川信夫「死んだ男」の書き出しを引用しつつ、戦争文学について以下のように述べる。 生き延びた者が死者によって問いつめられる。生き延びた者は,問いつめる死者へ…

川上未映子×マームとジプシー(東京国際文芸フェスティバル2014クロージング!)

東京国際文芸フェスティバル2014(というものがあったわけですが、みなさんご存知なんでしょうか。僕は知ってましたがスルーしました)のクロージングイベントに行きましたので少し感想を、書き散らしていますがお許しください。主に、というか全部川上未映…

「優しいサヨクのための嬉遊曲」の美少女について

優しいサヨクのための嬉遊曲 (新潮文庫) 作者:雅彦, 島田 発売日: 2001/07/30 メディア: 文庫 「ふふ、考えても駄目よ。考えるっていうのは悩むことなのよ。悩んだり、苦しんだりしたくなかったら考えない方がいいんですって」 「優しいサヨクのための嬉遊曲…

「#ゆーふらいと」 テラシマユフから寺嶋由芙へ

♯ゆーふらいと[初回限定DVD盤] アーティスト:寺嶋由芙 発売日: 2014/02/26 メディア: CD 昨年の五月だったか、テラシマユフがBiSから脱退した。彼女はBiSのエースだったわけで、脱退はBiSにとってもある程度の痛手であっただろうが、それはテラシマユフにと…

文学に入門するための本

間違えて文学部に入ってしまう、という事態は実は往々にしてあり得る。文学部にしか通らなかった、国語が好きだから、数学が嫌いだからーーそんな「だから」は、実はありふれているのではないか? そうした、間違えて文学部に入ってしまった人に、そして、間…

きたまり+Offsite Dance Project共同プロデュース『RE/PLAY(DANCE Edit.)』

きたまり+Offsite Dance Project共同プロデュース『RE/PLAY(DANCE Edit.)』多田淳之介演出、2014年2月14-16、急な坂スタジオホール 14日、雪の中野毛山を上り、観ましたので考えたことのメモ。私は『再/生』からの一連の上演を観ていないので、『RE/PLA…

梅崎春生「桜島」

桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫) 作者:梅崎 春生 発売日: 1989/06/05 メディア: 文庫 「桜島」が発表されたのは1946年、戦後間もない頃である。題のとおり梅崎春生が終戦を迎えた地、桜島を主な舞台にした小説であるが、しかし物語は7月の坊津から始…

水村美苗『私小説―from left to right』

私小説―from left to right (ちくま文庫) 作者:水村 美苗 発売日: 2009/03/10 メディア: 文庫 大雪の夜の久遠に人の不幸が亡霊のように記憶に蘇る。 『私小説―from left to right』は冬の寒い夜、カーテンの締め切った部屋、読書灯の黄色っぽい明かりで読み…

ミステリー戯曲『マクベス』

マクベス (光文社古典新訳文庫) 作者:シェイクスピア 発売日: 2013/12/20 メディア: Kindle版 ミステリー戯曲である。普通に読んでも飽きさせるところのない快作でもあるのだが、ちょっとした台詞が実は続く展開や物語全体を暗示していたり、ちょい役と見せ…

快快「6畳間ソーキュート社会」

快快「6畳間ソーキュート社会」@トーキョーワンダーサイト渋谷 テクノロジーの時代における、演劇という芸術の、そして快快の、プリミティブな魅力。生活を肯定する、優しさに溢れた劇団、演劇。 会場の空間に入ると、中心に畳が六畳敷いてあり、その上には…

小劇場に行くための本

今、演劇が熱い、と演劇に関わる人間が最近よく口にしているのですが、決して内輪だけの熱さではないと私も感じております。演劇に関しては、劇団四季とかシェイクスピアとかといった大物のイメージを持たれている方の多い気がしますが、しかし、今、熱いと…